Linux Mint 22(Ubuntu 24.04 “noble” ベース)における Chromium の導入は、従来の「apt で chromium-browser を入れる」という常識が適用できません。Ubuntuは 20.04 以降 Chromium を Snap でのみ配布し、Mint は方針として Snap を無効化しています。結果として、APT 経由では snapd への先行依存が解決できず、導入が停止します。なるほど、ここは Mint の思想(Snapを避ける)と Ubuntu の配布戦略(ChromiumはSnap)との接合面に位置する技術的論点です。
本稿では、現行の Mint 22 で Chromium を「確実に」導入する方法として Flatpak を軸に据え、その背景と代替手段の可否・トレードオフを淡々と整理します。
背景:UbuntuのSnap移行とMintの方針
- Ubuntu 20.04 以降、Chromium は公式に Snap 配布へ移行しました。APT のメタパッケージは
snapdを先行依存として要求し、実体は Snap に委譲されます。 - Linux Mint プロジェクトは Snap の強制導入に反対し、既定のリポジトリから
snapdを取り除いています。このためsudo apt install snapdは失敗し、結果としてchromium-browserも導入不能です。 - 以上から Mint 22(Ubuntu 24.04 ベース)では、APT ルートは原理的に閉じています。
選択肢の全体像とトレードオフ
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Flatpak(推奨)
- 利点: Mint 公式の姿勢と整合。Flathubの Chromium は更新が安定し、サンドボックスやロールバックが容易です。
- 留意点: サンドボックス越しの統合(キーリング、MIME、テーマ)で微差が出る場合があります。Portals 経由の権限付与で概ね解決します。
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Snap(Mintでは不可)
- Ubuntuの配布方針に従えば自然な選択ですが、Mint 環境では
snapdが無効化されているため、そのままでは使用できません。
- Ubuntuの配布方針に従えば自然な選択ですが、Mint 環境では
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PPA(saiarcot895 等)
- noble(24.04)を現時点で公式サポートしない構成があり、追加に失敗します。またAPT導入経路が残っていても、
chromium-browserが実体としてsnapdへ委譲される設計は変わらないため根本解決になりません。
- noble(24.04)を現時点で公式サポートしない構成があり、追加に失敗します。またAPT導入経路が残っていても、
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自前ビルド/配布
.debの取得- 再現性や更新追従が課題です。セキュリティアップデートの遅延は避けるべきで、運用コストも高く推奨しません。
結論:Mint 22 では Flatpak 一択に近い
Mint は Flatpak を第一次市民として扱います。Chromium に関しても、Flathub からの導入が最短で、更新とセキュリティの両面で現実的です。以下の手順で導入できます。
手順:Flatpak で Chromium を導入する
# Flathub が未有効なら追加(初回のみ)
sudo flatpak remote-add --if-not-exists flathub https://flathub.org/repo/flathub.flatpakrepo
# Chromium をインストール
flatpak install -y flathub org.chromium.Chromium
# バージョン確認
flatpak run org.chromium.Chromium --version
既存のワークフローやスクリプトで chromium というコマンド名を前提にする場合は、エイリアスを与えると取り回しが良くなります。
echo "alias chromium='flatpak run org.chromium.Chromium'" >> ~/.bashrc
source ~/.bashrc
# 動作確認
chromium --version
実務上の留意点(Flatpak運用)
- ハードウェアアクセラレーション
- VA-API などの有効化状況は GPU/Mesa/Flatpak ランタイムの組み合わせに依存します。動作が不安定な場合は、
--use-gl=desktopや--enable-features=VaapiVideoDecodeLinuxGL等のフラグで挙動が改善することがあります。
- VA-API などの有効化状況は GPU/Mesa/Flatpak ランタイムの組み合わせに依存します。動作が不安定な場合は、
- キーリング・証明書
- Flatpak ではホストのキーリングや証明書ストアとの連携が Portals/権限に委ねられます。社内プロキシや独自CA運用がある場合は、証明書の可視性を事前に検証します。
- ファイルアクセス
xdg-documentsなど標準の Portals 経由で十分ですが、特定ディレクトリへの恒常的アクセスが必要なら Flatseal 等で権限を調整します。
- テーマ統合
- ホストの GTK/アイコンテーマを Flatpak に反映するために、対応するテーマの Flatpak パッケージを導入すると見た目が揃います。
APT 経由が失敗する理由(技術的補足)
Mint 22 で sudo apt install chromium-browser を試すと、snapd の先行依存が満たせず停止します。根本は以下の二点に集約されます。
- Ubuntu 公式が APT 版 Chromium を実体として廃しており、メタパッケージ化して Snap に委譲している。
- Mint は
snapdを無効化し、apt install snapdを成立しない状態にしている。
このため noble 系で APT ルートを模索しても、本質的には閉路に入ります。PPA を追加できても、最終的な実体が Snap に向いていれば同じ結末です。
代替検討:PPA/ビルドの適用余地
- PPA(saiarcot895/chromium-beta 等)は、過去の LTS 世代では回避策として有効でした。しかし noble を未サポートである、あるいは APT の設計(Snap 委譲)により効果が限定される状況が見られます。
- 自前ビルドは、CFLAGS/LTO/FFD 等の最適化を吟味しつつも、セキュリティ対応の即時性を担保できない懸念が際立ちます。更新運用まで含めた総コストを考えると、Flatpak の継続更新モデルが現実的です。
まとめ
Linux Mint 22 で Chromium を導入する最短距離は Flatpak です。Ubuntu 側の Snap 移行と Mint 側の Snap 無効化という政策的前提がある以上、APT に回帰するルートは構造的に閉じています。Flathub 経由の Chromium は更新速度と安定性のバランスが良く、Portals による統合で日常利用の違和感も最小化できます。運用においては、GPU アクセラレーション、証明書、権限の三点を点検すれば十分です。必要があればエイリアスで既存の運用資産とも違和感なく接続できます。
参考文献
- Ubuntu Wiki: Chromium snap transition and deprecation of debs — https://wiki.ubuntu.com/Chromium
- Linux Mint Blog: Monthly News — Snap に関する方針と Flatpak 推奨(該当月のアーカイブ参照) — https://blog.linuxmint.com/
- Flathub: org.chromium.Chromium — https://flathub.org/apps/org.chromium.Chromium
- LinuxCapable: How to Install Chromium Browser on Linux Mint — https://linuxcapable.com/how-to-install-chromium-browser-on-linux-mint/
- The Chromium Blog — https://blog.chromium.org/