これまでの就労における課題
これまで、クローズ就労(障害を開示しない一般枠での就職)で複数の職場を経験してきました。仕事そのものはこなせるのですが、対人関係、特に上位職(上司の上司あたり)との関係で問題が生じることが多くありました。
細かい指示待ちになりがちだったり、判断基準の相違が生じたり、あるいは「なぜそんなことで困るのか」という理解されない状況が続きました。障害を隠したまま、健常者と同じペースで仕事をこなそうとしていたため、精神的な負担が大きく、長く続きませんでした。
クローズ就労からオープン就労への転換を決めた理由
このような経験から、オープン就労(障害を企業に開示し、障害者雇用枠で就職)への転換を決めました。
職場定着率の大きな違い
公開されているデータによると、クローズ就労の場合、3ヶ月時点の定着率は52.2%、1年時点では30.8%です。一方、オープン就労では1年後の定着率がおよそ70%以上に達しています。この差は、障害に対する配慮が得られるかどうかに大きく起因しています。
配慮を受けられることの重要性
オープン就労の最大のメリットは、障害や必要な支援について企業に開示できることです。これにより:
- 障害に対する理解と配慮が得られやすい
- 業務内容や職場環境について相談しやすい
- 必要に応じて合理的配慮を受けられる
- 障害を隠す精神的負担が軽減される
長期的に働き続けるためには、この「配慮」がいかに重要であるかを、これまでの経験を通じて痛感しました。
就労移行支援制度について
オープン就労への転換を決めたものの、どのように就職を進めればよいか、どのような仕事が自分に適しているのか、判断がつきませんでした。そこで選択したのが「就労移行支援」という制度です。
就労移行支援とは
就労移行支援は、障害者総合支援法に基づいた、一般就労等を希望する障害者の就労をサポートする行政サービスです。厚生労働省によると、対象者は「一般就労等を希望し、知識・能力の向上、実習、職場探し等を通じ、適性に合った職場への就労等が見込まれる65歳未満の障害者」とされています。
身体障害、知的障害、発達障害、精神障害、難病(369疾病が対象)を持つ方が利用できます。
サービス内容と標準期間
就労移行支援では、以下のようなサービスが提供されます:
- 事業所内および企業での作業や実習
- 適性に合った職場探し
- 就労後の職場定着支援
- 生活スキルの向上支援
利用期間は通所を原則としつつ、必要に応じて職場訪問等を組み合わせ、個別支援計画に基づいて設定されます。標準期間は24ヶ月です。なお、2年間の利用期間が終了しても就職に至らなかった場合、特定の条件を満たせば利用期間の延長が認められることがあります。
SST(ソーシャルスキルトレーニング)を受ける決断
就労移行支援の重要なプログラムの一つが、SST(ソーシャルスキルトレーニング)です。これまでの対人関係の課題を解決するために、このトレーニングを受けることを決めました。
SSTとは何か
SSTは、人との上手な接し方や自分の気持ちの伝え方などの社会的なスキルを習得するためのトレーニングです。通常5〜8人程度の少人数グループで実施されます。
就労移行支援で受けられるSSTの内容
就労移行支援で提供されるSSTは、実際に職場で直面する状況を想定した実践的な内容になっています:
- 質問の仕方
- 業務の依頼の仕方
- 困ったときの相談方法
- 指摘や指示の受け方
- 断り方
これまで「クローズ」のまま、健常者ペースで対応しようとしていたため、こうした基本的なコミュニケーションスキルが十分に習得されていなかったのではないか、と気づきました。
SSTの訓練方法と期待される効果
SSTは、以下のプロセスで進められます:
- 教示: スキルについて学ぶ
- モデリング: 講師が模範を示す
- リハーサル: 実際にやってみる
- フィードバック: 講師や仲間からの指摘
- 般化: 職場で実際に活用する
こうしたトレーニングを通じて、コミュニケーションスキルが向上し、人間関係を作るスキルが高まり、対人不安が低減することが期待されています。実施前後の調査でも、人間関係作成スキルの向上や、他者への不安低下が実証されています。
就労移行支援の活用と職場探し
就労移行支援の利用を通じて、単にSST を受けるだけでなく、適性に合った職場探しも進めています。
障害者雇用の求人の探し方
障害者雇用の求人情報は、ハローワーク、就労移行支援事業所、転職エージェント等を通じて入手できます。事業所のスタッフと相談しながら、自分の適性や希望に合った職場を探していく形になります。
事業所選びのポイント
就労移行支援事業所を選ぶ際には、以下のポイントが重要です:
- SST等のプログラムが充実しているか
- スタッフの専門性や熱心さ
- 事業所の雰囲気(訪問・体験を通じて確認)
- 実際の就職実績
複数の事業所を訪問し、自分に合った環境を選ぶことをお勧めします。
筆者の場合は、子どもが利用している放課後等デイサービスから事業所の紹介を受けたのがきっかけでした。子どもが障害者支援の事業所の利用者となったのに続いて、親の方が先に就労移行支援を利用することになってしまったというユニークな状況です。信頼できるスタッフの推薦という背景があったため、事業所の信頼性や専門性について、安心して利用を開始することができました。
複数事業所の併用について
通常、就労移行支援は単一の事業所で利用することが標準ですが、自治体によっては複数事業所の併用を認める場合があります。ただし、併用を認める自治体は限定的であり、実現例は少ないのが実情です。
複数事業所を併用することで、例えば特定のSST プログラムを強化したい場合や、異なるタイプの訓練を組み合わせたい場合など、個別の支援計画に基づいてより充実した支援を受けることが可能になります。
複数事業所の併用を希望する場合は、利用予定の事業所に相談し、自治体の制度上、併用が許可されているかどうかを確認することが重要です。許可されている自治体であれば、事業所との調整を通じて利用開始が可能になります。
まとめ
クローズ就労での失敗経験を経て、オープン就労への転換、そして就労移行支援でのSST利用という決断に至りました。
これは単なる「仕事探し」ではなく、対人関係スキルを改善し、長期的に働き続けるための基盤を作ることの重要性を認識したプロセスでした。70%以上の定着率を示すオープン就労という選択肢があることを知ることで、心理的にも大きな転機となっています。
同じように「普通の就労がしんどい」と感じている方、対人関係での課題を抱えている方の中には、就労移行支援とSST を活用することで、適性に合った職場を見つけ、長く働き続ける道が開ける可能性があります。
制度を理解し、自分に合ったサポートを受けることが、本当の意味での「働き方」の実現につながるのだと感じています。